札幌地方裁判所 昭和39年(ワ)279号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕右認定の事実によれば、本件承継執行文附与の対象となつた債務名義は、本件土地所有者である被告と地上建物所有者である訴外木戸間において昭和三〇年三月一四日に成立した調停調書であつて、右債務名義上の債務者訴外木戸において右債務名義上の債権者被告に対し、昭和三五年一〇月末日限り本件建物を収去し、その敷地を明け渡す義務を負担したものであること、本件承継執行文の附与が原告を右債務者訴外木戸の承継人と認めてなされたものであることが明らかである。
そこで原告がはたして右債務名義上の債務者訴外木戸の承継人に当るかどうかについて判断することとする。
本件債務名義にもとづく訴外木戸の被告に対する建物収去土地明渡義務は、訴外木戸の本件建物所有による本件土地占有の結果として生じたものであり、したがつて右建物の所有権を本件調停成立の日以降に譲り受けた者が民訴法五一九条一項にいわゆる承継人に当ることは勿論であるが、建物賃借人もまた建物の占有によつてその敷地に対する占有を有することになるのであるから、本件調停成立の日以降に右建物の全部または一部を建物所有者訴外木戸から賃借する等により建物の占有を取得した者もまた民訴法五一九条一項にいわゆる承継人に当ると解すべきである。けだし、調停成立後その建物の占有を債務者から取得した者は、これによりその敷地の占有をも債務者から承継したものにほかならないから、債務者の負担する建物収去土地明渡義務の範囲内での債務名義の効力を受け、占有建物から退去してその敷地明渡義務を債権者に対し負担することとなるからである。
しかしながら、調停成立後に建物の占有を取得するにいたつた者でも、その占有を債務名義上の債務者から取得したものでない場合、すなわち、調停成立前から当該建物を債務者以外の第三者が占有しこの者からその建物の占有を取得した者は、民訴法五一九条一項にいわゆる債務者の承継人には当らないものというべきである。なんとなれば、この場合にあつては、建物の占有取得によるその敷地占有の承継は、もともと債務名義の効力の及ばない第三者からの承継によるものであつて、債務者から占有を承継するものとはいえないからである。
本件についてこれをみるに、成立に争いのない乙三、四号証<中略>を総合すると、本件建物部分は、本件調停成立以前である昭和二八年二月一日訴外西が訴外木戸から賃借し、訴外西においてその営業のための店舗として使用していたところ、本件調停成立以降である昭和三〇年九月二七日に訴外西においてその営業を会社組織にするため原告会社を設立し、同時に本件建物部分の賃借権を原告会社に譲渡し、爾後原告会社が同一建物部分を占有使用するにいたつたものであることが認められ、右の事実によれば、原告会社が本件建物部分の占有を取得したのは訴外西からであつて、訴外木戸からでないことが明らかであるから、訴外木戸の被告に対する債務名義の効力が原告会社に及ぶことはあり得ないものといわなければならない。
被告は、賃借権の譲渡は、賃貸人の承諾によつてその利用収益権が正当化され、承諾のときに始まる賃貸人と譲受人間の賃貸借関係はその承諾のときに成立するから、調停成立後に賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾があつた場合は、新たな賃貸借契約が締結された場合と同様、譲受人は調停における賃貸人の賃借物に対する地位を承継する旨主張するが、賃借権の譲渡は、賃貸人の承諾の有無にかかわりなくその当事者間においては適法に成立するものであつて、ただ、賃貸人の承諾がなければ賃貸人に対する関係でその賃借権の譲渡を対抗し得ないのみであつて、この承諾によつて譲受人が建物の占有の取得、したがつてその敷地の占有を承継するものでもないから、賃貸人に対する債務名義の効力がこの賃借権の譲受人に及ぶことはあり得ない。この場合問題とすべきことは、あくまでも建物占有取得による敷地占有の承継がなんびとからなされたものかということであつて、その占有取得の原因が賃借権の譲渡か、転貸借か、およびそれが賃貸人に対する関係で適法となるかどうかということは本来無関係なのである。よつて被告の主張は採用できない。(大久保敏雄)